2015年11月分句会報

句会報の一部を紹介します。


台風を肋骨のなかに飼ふてをり
大森健司

雑踏や残り一個の林檎買ふ
菅城昌三

猫じやらし風をこぼして過ぎる人
西川輝美

解けぬまま幾何文様に穴惑ふ
速水房男

てのひらに父の影みる秋の暮
渡部新次郎

湯にもみじほどけゆく身に命あり
森千花

臍の緒を手繰りて月を引き寄せる
河本かおり

水鏡枯葉の赤を閉じこめり
篠田和

鍵ひとつ減り秋光の満ちてゆく
高木憂

爪痕にただ静かなる秋のゆく
井納佳子

水底に亀と戯むる紅葉かな
松浦美菜子

咳ひとつ隔つ襖の重さかな
柴田春雷



雑踏や残り一個の林檎買ふ
菅城昌三

これは、「森」中央句会で特選に採った句である。

雑踏や、という言葉の中に日常生活の倦怠感や矛盾を感じた。

これが昌三の現実である。

残り一個の林檎、というものに非現実の希望を見た。

まだ少年の心の昌三の姿がそこにはあった。

角川春樹氏は昌三のことを、サラリーマン俳人の名手と名付けられた。

しかし、そこには矛盾や葛藤が渦巻いておりり、まだ本人は世俗に飼い慣らされてはいない。

ストーリー性もあり、転換もある良い作品。


解けぬまま幾何文様に穴惑ふ
速水房男

非常に面白い発想。

幾何文様に、という措辞が良い。

穴惑ひというのは、蛇が寒くなり冬眠をはじめること。

本人の悩める日常を託した一句、

同時に、
十月の湖に休める天女かな

立冬やセピア色した女(ひと)と居て
も、あり

ロマンチストな人柄が句柄として表れている。


てのひらに父の影みる秋の旅
渡部新次郎

「森」洛北句会での特選の一句。

男にとって父というものは特別な存在となる。

反抗、葛藤、抵抗、尊敬。なんとも表せないすべての感情がおり混ざる。

僕の処女句集『あるべきものが…』の句のほとんどのオマージュも父というものの存在であった。

僕は父を知らない。

一枚の写真で見ただけである。

しかし、年を重ねるごとにふと似ている自分が鏡にあることにぞっとすることがある。

非常に共感できる一句。


湯にもみじほどけゆく身に命あり
森千花

これも「森」洛北句会での特選。

湯にもみじ、からして温泉か何処かであろうか。

ほどけゆく身に、という措辞がとても緩やかで良い。

映像の復元、自己の投影もしっかり為されている。

しみじみと命の有り難さと少しの寂寥感を感じさせる一句である。

命という重い単語が決して浮いてなく、さりげないのも良い。


臍の緒を手繰りて月を引き寄せる
河本かおり

「森」中央句会で特選4句の中、3句を河本かおりが独占した。

驚くべき上達である。

まず句のスケールが大きい。

そして、臍の緒を手繰りて月を引き寄せた、という宇宙観、世界観は見事である。

尚且つ、地に足がついている句でもある。

臍の緒は、宇宙観の始まりでもある。

それをさらに引き寄せるとしたことでインパクトのある強い一句となった。

素晴らしいの一言。

年ゆくや天につながるいのちの緒 角川春樹

ともに、哲学的な俳句。

じっくりと噛み締めて鑑賞していただきたい。

透けてゆく肢体に秋の降り積もる

熱の夜四肢の先より綿の吹く

これらも俳句の根源である詩ーポエジィが溢れ出ていて秀吟である。


爪痕にただ静かなる秋がゆく
井納佳子

今月から正式に句会に来られた新人。

非常に洒落た方で、人品を備えられている。

雨の句会の日にはAIGLEのレインブーツと可愛いニットで来られた。

爪痕とは、人生の爪痕と捉える。

生きてゆく中で爪痕は幾つも残る。

それでも人はまた生きてゆく。

ただ静かなる秋がゆく、という措辞によって淡々とそれを謳いあげた、そこに良さがある。



俳句の器は非常に大きい。

17文字しかない最短の詩のなかに、如何にして様々なストーリーを創りあげてゆくか。

またそのストーリーを創りあげてゆくには豊かな感受性と省略する知恵も必要になってくる。

いつまでも飽きることのない俳句はやはり楽しい。そして何より大切なのは人間として豊かに生きていく力である。


大森健司
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