2015年12月句会報

句会報の一部を紹介します。

海鳴りや中也がコート脱ぎ捨てし
大森健司
北風吹かばアルファベットの転がりぬ
菅城昌三
吾が輩の場所に猫ゐる漱石忌
西川輝美
かざはなや手話の一文字見落とせり
速水房男
書を置けば比叡の山は寒の雨
渡部新次郎
罪深き赤い血流る手套の手
森千花
立ち漕ぎの坊主の足袋の白さかな
河本かおり
顔見世のまねきしまひし昨日かな
高木憂
外套や雨の雫を指にとり
井納佳子
幾たびも大根煮かえす雪の夜
篠田和
雪しんしん青信号を待ちにけり
池上加奈子
冬の水友の短き手紙来る
佐藤美奈子
福笹の納めそびれて年明くる
白川智子
白足袋のくるぶし濡らす薄暮かな
柴田春雷

北風吹かばアルファベットの転がりぬ
菅城昌三
「森」中央句会での特選。
昌三の代表作をひとつ挙げるとすれば、
香水を夜に落とせし堕落論
である。
昌三の句の良さは伝統を踏まえながら、現代的な詩であることである。
一行の詩でありながら、俳句として確固たる信念がある。
前回、特選に取り上げた句で、
夕立きて部屋に数字の横たはる
という句があったが、今回の句も発想の原点は同じである。
やはり昌三に実力があることに間違いはない。

吾が輩の場所に猫ゐる漱石忌
西川輝美
これは、
勿論モチーフになっているのは夏目漱石著『吾輩は猫である』である。
句会でこの句が回ってきたときに、非常にユニークだと思った。
本来、忌日俳句には弱い季語を入れるべきだが、この句には入っていない。
句に奥行きはないかも知れないが、何か惹かれるものがある。
また、西川輝美の猫を中心とした日常的な生活を知っているだけに余計に滑稽である。
輝美の句集『それでも夏が大好きで』の中で、
貴婦人の放屁黒百合うなだれて
という句がある。
これは吾が輩の句とはまた違ったユーモア、可笑しみがあり、個人的には非常に評価している。
どちらにせよ、俳句には抒情も必要だが、ウィットも必要なのである。

かざはなや手話の一文字見落とせり
速水房男
これは映像の復元がしっかりとされている作品。ドラマのワンシーンのようでもある。
かざはな「風花」とは、雪とはまた異なり晴天の空からひらひらと舞ってくる雪の欠片である。
情景として、非常に美麗。
又、手話の一文字見落とせり、という措辞も良い。静かな部屋で手話をするひととそれと対峙するひと。
ふたりきりの窓際であろう。
美しくも爽やかに仕上げられた作品。

書を置けば比叡の山は寒の雨
渡部新次郎
「森」洛北句会での特選の一句。
まず俳句の善し悪しは季語を通して半分は決まる。
この、寒の雨、は季語が動かない。
また筆を置くのではなく、書を置けば、という措辞も素晴らしい。
映像の復元、リズム、自己投影。
全てが揃っており、格調高い作品となった。
まるで水墨画のようでもある。
非常に感銘を受けた作品。
また、同時に
豆腐売リヤカー押す背のしぐれかな
もあり秀吟。

罪深き赤い血流る手套の手
森千花
これも「森」洛北句会での特選。
程よい毒々しさがあり、魅力的。
当初は「手袋の手」だったが、字余りでリズムが悪いので手套の手に推敲した。
これは布手袋より皮のが良いであろう。
俳句的な俳句ではなく、一行の詩である。
心象を巧みに表現した作品。

ポインセチアひと雫だけ罪落とす 大森健司

この句を知っていたか、知らなかったかは存じ上げないが、どちらでも良い事。
素晴らしい作品には違いない。

白足袋のくるぶし濡らす薄暮かな
柴田春雷
まず、くるぶしを濡らすという所にエロスがある。
くるぶしを濡らしたのは小雨もしくは時雨であろう。
また薄暮という夕暮れの深まった世界観も良い。
これはやはり京女の俳句である、と思わせる作品。
他にも、
都鳥浮き寝に夜をとどめけり
寒稽古あまりに脆き三の糸
身八つ口過ぎゆく風に冬陽射す

があり、
どれも情緒ある古典的な風情のある作品に仕上がっている。

今年も年の瀬、俳句会「森」としての活動が終わろうとしている。
伝統と革新。これはどの分野に置いても非常に重きのあることである。このふたつは相反する位置に居ながら、同居しなければならない。伝統を、無視しての革新などあり得ない。あったとしたらそれは偽物である。
柴田錬三郎の文芸時評に次の一節がある。
「こんにち世相が収拾すべからざる混乱に陥っている時、殆どの新人の作品が、トリビアルな自己の周辺しか描いていないことは何を意味するか。
現実が無秩序な紊乱状態を示してくると、それを凝視する眼のない作家は、リアリズムに対する自己喪失によって、最も安易な対象に逃げ込んでしまうのである。これは新人達の内的意慾の貧困を意味する」
これは昭和21年の三田文学に寄せた寄稿であるが、現代の小説、詩歌、俳句にも同様と言える。
ひとつの現象をとらえる時、それをどれだけ創作するか、否か。努力による創作、つまり虚構は大変重要な課題となるのである。
薄っぺらい真実よりも、
嘘の中に真実が在る方が良い。

大森健司



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プロフィール

kenjiomori

Author:kenjiomori
俳句結社「森」主宰、大森健司のブログ★受賞多数。
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お問い合わせは「森」ホームページ にて。

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