2016年10月句会報

句会報の一部を紹介します。

席題(桔梗、十六夜(いざよひ)、水澄む)

いざよひや哀しきいのち箸に置く
大森健司
老夫婦無月に赤き花咲かす
菅城昌三
こころだけとほくにありて水の澄む
西川輝美
水澄んで呼ばれるままに行きにけり
速水房男
右ポッケなごりの秋をつめ込みて
森千花
十六夜や少しはみ出す紅拭ふ
河本かおり
天の川星なき我に汽笛鳴り
井納佳子
早朝の銀河が去りし枕元
松浦美菜子
光秀の面影追ひし桔梗かな
山本孝史
手をつなぎ銀河の下に影ふたつ
池上加奈子
あきかぜや行くも戻るも紙一重
白川智子
庭先の桔梗の影に苔茶伏す
前川千枝
鹿鳴くや夜の青きを見てゐたり
柴田春雷

老夫婦無月に赤き花咲かす
菅城昌三
無月とは、十五夜の名月が曇り空の為、見えないことを指す。
この句は虚構の中に真実がある。
この作品自体は作者のフィクションであろう。
しかし、「老夫婦」「無月」と「赤き花」との陰と陽のコントラストが良い。
良い作品というものは、陰と陽、文学的に言うと「ケ」と「ハレ」の交差の中に成立する。
そういった意味でこの「赤き花咲かす」というセンテンスが、月は見えなくとも満月の夜であることをアンニュイに感じさせる作品に仕上がっている。

水澄んで呼ばれるままに行きにけり
速水房男
これは「森」中央支部での昌三の並んでの特選の一句。
昌三よりも更に平明で素直で、且つ、季語の本質を捉えていて素晴らしい。
これは自己投影以上に作者の人柄を感じる作品。
微笑ましくもあり、手垢の全くない作品。
席題の「水澄む」とは、台風や長雨の過ぎた秋の深まりに、川、池、沼、水かめの水。そして台所の器の水までが澄んだ感じがすること。
澄んだ自然の摂理に逆らうことなく、導かれるままに歩んでゆく作者の生き方が全面にみえる素晴らしい作品である。
他に、
川越へて釣瓶落しの花街(かがい)かな
陽も月も届かぬ星の曼珠沙華


右ポッケなごりの秋をつめ込みて
森千花
他に、
風つよし金糸銀糸のすすきかな
秋時雨秋を深めて仕上げけり
結梗咲き我欲なき色美(うま)しけれ

がある。
高得点句は、
桔梗咲き我欲なき色美(うま)しけれ
桔梗は結梗とも書く。
まず美(うま)しけれ、という表現が良い。
桔梗の紫の格調の高さを女性ならではの憧れの視点と共に柔らかくも大胆に表現している。
いつも色とりどりイメージのある作者だが、これは秋の紫一色が際立つ作品。
また、
右ポッケなごりの秋をつめ込みて
秋は実りとそれが去る相反する季節。それを初心を忘れることなく創作している。
こういった奇を衒うことなく、初心のこころでつくり続けることは簡単なようで容易ではない。

十六夜や少しはみ出す紅拭ふ
河本かおり
これも「森」中央支部での秀逸。
限りなく特選に近い。
この「紅」は具体的な女性の口紅、もしくは女性が持つ「紅」そのものであっても良い。
季語の「十六夜」とその後の措辞が絶妙であり、映像の復元もしっかりと為されている。
拭いとった布、もしくは紙、そして掌。
月明りだけの薄暗い闇。
それを明確にイメージさせる。
これもまた女性のアンニュイな色気ある一面を切り取った作品。
この作者は言葉というより、センテンスの組み合わせの巧みさは秀でている。
「森」の中では、菅城昌三の創作の方法に少し似ていると言えるだろう。

鹿鳴くや夜の青きを見てゐたり
柴田春雷
森「洛中」支部特選の作品。
夜の青きを見ているのは、鹿なのか作者自身なのか?
そこは明確にすべきではない。
詠み手に委ねて良いだろう。
季語の「鹿鳴くや」と中七、下五の組み合わせが絶妙。夜の青という措辞も良い。
確実に実力をつけているひとりでもある。
他に、
秋晴れや履き慣れた靴捨てきれず
十六夜や手を振れど父振り向かず

があり、全て秀吟。

小林秀雄の対談集で大岡昇平との中に以下の内容があった。
ー以下、小林
ぼくはとにかく人を説得することをやめて25年くらいになるな。人を説得することは、絶望だよ。人をほめることが、道が開ける唯一の土台だ。このごろ人にはそれだけの道しかないように思っているんだけれども、何でもいいから僕の好きなものは取る。人から取るの。そうゆう道はあるよ。だから、説得をやめてというのは無関心になったわけじゃないんだ。取れるものは取ろうと思いだしたんだよ。ずいぶん昔のことだけれど、サント・ブーヴの「我が毒」を読んだときに、黙殺することが第一であるという言葉にぶつかったが、それがあとになって分かったな。お前は駄目だなんていくら論じたって駄目なことなんだよ。全然意味をなさないんだ。
自然に黙殺できるようになるのが、一番いいんじゃないかな。

「自然な黙殺」というのは、本来の俳句にも通じることではないか、と感じている。
今の世間や俳壇での俳句作品は無駄に饒舌すぎる。それでは余白が生まれない。
遊び心もない。
それはそれで楽しくないのではないか、飽きを早まらせるのではないか、と大いに感じる。


大森健司
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プロフィール

kenjiomori

Author:kenjiomori
俳句結社「森」主宰、大森健司のブログ★受賞多数。
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