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2019年10月句会報

句会報告一部を紹介します。

兼題 : 天高し、鳥渡る、桃、すすき

湯浴みしてまだ夜がありぬ乱れ萩
大森健司
鳥発つやをんなの鞄持たさるる
菅城昌三
固き桃ナイフを入れて人嫌ひ
西川輝美
欲望の果てて芒野見てをりぬ
速水房男
月照りてすすきの原や海と化す
上田苑江
天高し振られた言葉思ひだす
武田誠
秋風や夜のブランコ漕いでをり
松浦美菜子
ペアリング指から外し鳥渡る
山本孝史
ちぐはぐな靴はいてをり秋の空
池上加奈子
鰯雲カメラ目線が鼻につき
白川智子
白桃や互ひの腹をさぐり合ふ
前川千枝
すすき野や眠れぬ夜に耳澄ます
臼田はるか
過日より我をはなちて鳥渡る
中谷かける
渡り鳥夕日のへりに焦げて消ゆ
村田晃嗣
いざよひや母はひかりを咲き登る
三谷しのぶ
失ひし時のきらめき銀すすき
やまだふゆめ
色鳥や懐かしき名で呼ばれをり
柴田春雷

鳥発つやをんなの鞄持たさるる
菅城昌三
季語は 鳥渡る の類語である、「鳥発つ」である。
「をんなの鞄持たさるる」という措辞が映像の復元を現代的に持たせている。
この作品を見て、女性が男性より優位に立っているのは、言うまでもないが、またそれがまんざらでもない作者の様子が実に滑稽である。
又、季語の「鳥発つや」の季語の付け方も絶妙である。
「鳥発つ」という一瞬の動きに相反する作者のボーッとした、反射神経の鈍さをそこに見ることが出来、何故か微笑ましい。
私はこの作品に対して、自然と笑みがこぼれるのである。
「鳥発つ」という言葉で俳人がまず連想するのは、「色鳥」である。
「色鳥」とは、秋にいろいろの小鳥が渡ってくるが、色彩の美しい鳥が多いので、総称として、「色鳥」といっている。
今まであるようで、案外見られなかった現代的な作品は、作者の自己投影もしっかりもされていて、自分自身を冷静に俯瞰(ふかん)できたのは、俳人としての成長の証だろう。
俳句は「裸の文学」である。

固き桃ナイフを入れて人嫌ひ
西川輝美
「森」中央支部特選。
この句は二通りの解釈が出来る。
一つは、日頃抱えているストレスが、「固き桃」というモチーフにナイフを入れる妄想で昇華され、破壊願望を踏みとどまらせる理性。
作者の作品が成功する時に見られるのが、絵画をピンポイントで連想出来るような映像の復元力と言える。
奈良美智が描いた、女の子がナイフを片手に立ちすくんでいる、【ナイフビハインド】という絵画をもしご存知なら、よりこの句の世界観が伝わるのではないかと思われる。
そして、もう一つの解釈は、「固き桃」にナイフを入れる行為への拒絶である。
白桃に入れし刃先の種を割る 橋本多佳子
こちらの句では、ナイフを入れたらうっかり種に刺さり過ぎて、あら、割れちゃったという、あっけらかんとした女性が描かれている。
作者の作品は、これと対極にあり、ナイフを入れたら種にあたる煩わしさを想像すると、ナイフは入れたくない、だから「白桃」ではなく「固き桃」なのである。
人には深入りせずに適度な距離でいたい消極性を上手く動作で表現した作品と言えよう。
いずれの解釈にせよ、社会で生きることの閉塞感が現れた、現代的な印象深い作品。

欲望の果てて芒野見てをりぬ
速水房雄
「森」中央支部秀逸。
男性が直面する老いへの恐怖、それは肉体的な老いはもちろんのこと、精神的な老いも含まれる。
川端康成はノーベル賞受賞後、感性の枯渇や書けないことへの恐怖に苦しんだ。
『山の音』『みずうみ』『眠れる美女』の三部作で描かれたのは、息子の嫁や少女を性の対象とした、男として枯れたくない抵抗であった。
晩年の名作『古都』で一度息を吹き返したものの、想いはまた引きずられ、『片腕』で描き過ぎたことが酷評の対象となり、自死を招いた一因と言われている。
小説家と俳人の違いは、俳句は書き過ぎてはいけない文芸である。
多くを語らず、男が枯れてもそれに抗わない余裕、俳人に自殺者が居らず、長生きと言われる所以なのかもしれない。

月照りてすすきの原や海と化す
上田苑江
「森」中央支部特選。
「すすきの原」が金色に輝く映像が見事に復元された作品。
「海と化す」と言い切れるのは、作者の感動に一点の曇りも無いからであろう。
澄んだ心で自然を受け入れることで、沸き起こる感動を純粋に描くことが出来、不思議と作品に重厚感を持たせている。
この場合、「月」と「すすき」の季重なりであるが、季語の強弱関係では「すすき」がメインと思われる。季重なりは全く問題ない。

すすき野や眠れぬ夜に耳澄ます
臼田はるか
「森」祇園支部特選。
秋の夜は長い。なかなか明けぬ夜にすすきの揺れるざわざわとした音では、本来なら不安でしかない。
この作品が目を惹くのは、「眠れぬ夜に耳澄ます」の措辞である。
夜になるとひんやりとした風が吹き、心地良くてなんとなく眠るのが惜しい、秋の夜長を楽しむファンタジーのような世界が描かれている。

渡り鳥夕日のへりに焦げて消ゆ
村田晃嗣
「森」中央支部特選。
「渡り鳥」が「消ゆ」で、本来ならパワーが弱まる世界観になるところを、「夕日のへりに焦げて」という措辞が、沈まぬ太陽の圧倒的な力をもたらしている作品。
近づくものを焦がし、吸い込んでしまうほどの太陽、つまりは自然には敵わないという畏敬の念が根底にあると思われる。
渡り鳥が去り、夕日が沈んでも、山の上に残る茜色の空までが目に浮かび、残像がいつまでも残るような、大変余韻のある作品である。
作者らしい映像の一瞬の切り抜きが見事と言える。

いざよひや母はひかりを咲き登る
三谷しのぶ
「森」中央支部特選。
母親と娘の関係性は介護という形で逆転する。
母親の愛情を受けて成長し、やがて結婚、出産へ、子を持つ瞬間、母親の力を借りないと自分は成人出来なかったことに気づく。
そして、自身の子供が親の力を借りずに自立する頃、親の老いに直面するのである。
何事も覚束なくなり、頼ってくる姿にショックを受けて、悲観的になるところを、作者はそうではない。
娘に戻ったかのように、無邪気に振る舞う姿を好転的に捉え、本来なら枯れてゆく老いの形を「ひかりを咲き登る」と、透き通ったものに転換しているのである。
これから欠けてゆく「いざよひ」という季語がこの作品をより幻想的な香りをもたらす。
まるで新たなかぐや姫の世界観のようである。

失ひし時のきらめき銀すすき
やまだふゆめ
「森」鴨川支部特選。
俳句は感傷的になり過ぎると駄作に終わる。
しかし、作者の「銀すすき」という体言止めの終わり方が見事であり、まるでプルーストの『失われた時を求めて』のように、重層的な作品に仕上がっている。
作者自身が回想する、失ってしまった時を俯瞰的に捉え、さらに主観に入りこめる人間力がこの作品にはしっかりと現れているからこそ、全ての時は「きらめく」のである。
すすきが金や黄色では全く成り立たず、「銀すすき」であることがこの作品を成功に導いた要因である。
まさに「ことばにエネルギーのある」作者の、確固たる信念を持って貫く生き様が垣間見られる第六感的作品。

色鳥や懐かしき名で呼ばれをり
柴田春雷
「森」祇園支部特選。
「懐かしき名」とは、女性にとっての旧姓が一般的な解釈であろう。
SNS時代の前の挨拶状である年賀ハガキには、女性の場合、送り主の名前の下に(旧姓 何某)があった。
また、最近では、Facebookのプロフィール欄に、旧姓が書かれている場合がある。
聞くとどうも、それは苗字が変わって誰かわからないから併記しているだけではないらしい。
旧姓で呼ばれると、独身時代、つまりは少女の時代に戻れるそうである。
ふと蘇る記憶、女性は誰しも思い出の中で生きられる瞬間があるのだろう。
男性が結婚指輪を外す行為とはまた違った、女性にしかわからない感覚を少し知る面白い作品。
季語の「色鳥」が思い出の中にある青春性を浮き立たせ、良く効いている。

十七文字に詰め込みすぎると焦点がぼやけてくる。
それを如何に客観視して相手に知らせるか、否か。
詠み手に如何に想像させるか、写生をすることで気持ちを昇華させるのである。

「森」俳句会は近日、会員も増え、さらに充実した句会となっている。
「森」鴨川支部が新たに開設された。
近い将来「森」東京支部を開設する予定である。

俳句は言葉足らずでも、饒舌すぎてもいけない。
これは各企業のセミナーでも話していることであるが、99の流れる言葉より、「1の核心」を突いたひと言の方が、相手の心に残る。
話が上手ではない経営者の方々、不得手な経営者の方々もいらっしゃるが、ポイントはたったひとつでいい。
相手の心に突き刺さる言葉があればいいのである。
それは決して多く饒舌ではいけない。
あとはそのひとつの言葉を引き立てるある意味、陰や褻の言葉で良いのである。
多くを語る者は多くを失う。
それは詩歌のすべて。
又、俳句の世界でも同じである。


追記
現在は企業のセミナーやコンサルティングもいくつか行なっております。
言葉の力というものは不可欠であり、非常に重要です。
いかにして短い言葉でインパクトを残すことが出来るか、ということです。尚、川柳や短歌にはない「季語」を勉強することによって言葉の
引出しは確実に堅実に増えます。感受性も高めます。
また「森」句会とともに進めてまいります。

詳しくはまたホームページをご覧のうえ、お問い合わせください。
「森俳句会」ホームページ
http://morihaikunokai.jp
尚、ご質問につきましては、
「森俳句会」
morihaikunokai@gmail.com
までお気軽にご連絡ください。
大森健司
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プロフィール

kenjiomori

Author:kenjiomori
俳句結社「森」主宰、大森健司のブログ★受賞多数。
お気軽に覗いて下さい。
お問い合わせは「森」ホームページ にて。

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