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2023年新年句会報

句会報告一部を紹介します。

兼題 : 初空、宝舟、白鳥、木の葉


しぐれてはそれぞれの花零しけり
大森健司
住む町や木の葉の上に木の葉降る
菅城昌三
青葱の折れてけふの日悔いてをり
西川輝美
(あかつき)や白鳥首を伸ばしたり
速水房男
水冴えて菜を振り洗ふ寒の入り
上田苑江
宝船旅の終(つい)なる忘我かな
村田晃嗣
はとりの尾も高らかや初御空
武田誠
お降りの犬には優し湿りかな
松浦美菜子
初空やきのふの夢を巻き戻す
山本孝史
白鳥や少女にひとつ秘密あり
池上加奈子
宝船置き忘れたる夫(つま)もかな
白川智子
初御空ためらひもなく染まりけり
前川千枝
紅引きしひと指し指や初御空
臼田はるか
木の葉踏む水を買い足す町灯り
中谷かける
金銀の波分けて来る宝船
三谷しのぶ
冴ゆる夜の何の音とも知れぬ音
加藤克子
橙にまだ見ぬ夢の色うすし
熊谷昌美
お降(さが)りの来たりて傘を閉じにけり
柴田春雷

暁(あかつき)や白鳥首を伸ばしたり
速水房男
「森」中央支部特選。
これは作者の自然讃美の作品である。
美しい句である。
ここでは、漠然と市内鴨川あたりの水鳥と見てよいだろう。
鴨川の仄かな水音のもとどこまでも川の流れが続き、一羽の白鳥に作者は目を奪われている。白鳥の首を伸ばした行為が暁(あかつき)によって、いっそう美しい、豊かな光景を呈するのだ。事柄は単純であるが、何が贅沢の美しさ、豊かさとも言うべき感情がそこには存在する。

宝船旅の終(つい)なる忘我かな
村田晃嗣
「森」俳句会中央支部特選。
新年に相応しい晴れやかな挨拶句「宝船」に感嘆した作品である。
作者が旅のあと、旅を語る目は澄んで美しく、また楽しそうでもある。
荘子の「坐忘(ざぼう)」では、静坐して心をしずめ、自分を取り巻くものを忘れることを説いている。
人には煩悩があり、心の中では何かしら二つのものが対立し合う相対の関係にある。
そこから離れると、事物の根源は一つである一元的なものとなり、心は自由に解き放たれる。
一年を振り返り、内省して雑念を取り払う姿は敬うべき姿勢であり、「旅の終(つい)」に見る「忘我」は非常にストイックな作者の一面を垣間見る。まさに粛々とした作品。

にはとりの尾も高らかや初御空
武田誠
「森」祇園支部特選。
古くから鑑賞用として重宝されてきた「にはとり」の尾は長く、大変美しい。
雄が特に美しいのは、生存競争において己の力量を誇示する為である。
作者もまた年新たに信念を貫き、雄々しく生きてゆく覚悟のようなものをそこに感じたのである。
新年の第一声も「初御空」にどこまでも高く聞こえるようであり、季語「初御空」が句柄の大きい作品、挨拶句として見事に形を為している。

冴ゆる夜の何の音とも知れぬ音
加藤克子
「森」中央支部特選。
俳句には機微が重要となってくる。
例えば、微妙に移り変わる月の形や葉の擦れ合う音など俳人としての観察眼が問われる。
この作品は、「何の音とも知れぬ音」とあり、これが逆に静寂さを見事に表現している。
それ故に季語「冴ゆる夜」は研ぎ澄まされた鋭利な洞察力を持っている。
俳句への情熱が内なる力を秘め、静かな中にある緊張感が此方にまで伝わってくる。
作者の一年の上達の集大成といえよう。
感銘した作品である。

橙にまだ見ぬ夢の色うすし
熊谷昌美
「森」中央支部特選。
季語「橙」は、縁起を祝い正月の飾りにされる。
装いも新たに真っ白な空間において、一際目につく存在であり、色彩も鮮やかである。
措辞「まだ見ぬ夢」が「色うすし」は、今後徐々に膨らんでいくであろう作者の期待をも孕ませている。
「橙」が道しるべとなり、幾重も色を重ねてゆく女性のしなやかな美しさがそこにあるのである。

お降(さが)りの来たりて傘を閉じにけり
柴田春雷
「森」祇園支部特選。
お降(さが)りとは、元旦や三が日の間に降る雨や雪のことで、めでたさを敬して御降(おさが)りという。
この作品は「来たりて傘を閉じにけり」とあるように、例えば京都花街の中を、着物についた水滴を振り払う加納ように軒下に滑り込む情景が目に浮かんでくる。
又、傘を小脇に抱え佇む姿も日本画のようである。
何気ない仕草が実に平明ながらに女性らしく描かれ、情趣がおのずから醸し出されているようである。

【森俳句会とは】
俳句は十七文字の世界で最も短い詩です。
言い過ぎであってはならない、想像の余地がなくなるからです。又、重心がなく情景が思い浮かばないと相手に真意は伝わりません。
折口信夫の言葉に「詩(うた)は訴える」とあります。
「森俳句会」では何より「座の文芸」を大切にしています。

【俳句という大いなる遊び】
現在は主宰 大森健司講演の他、企業様向けセミナーや医療福祉グループワーク指導も行なっております。
言葉の力というものは「生きる力」そのものです。
いかにして短い文字数で力強いことばを残すことができるか、そしてそれは何度読み返しても飽きのこない普遍性のあるものかどうか疑ってみる事です。
季語を学ぶことは好奇心に繋がります。
まずはじっくり観察すること、そして自然と心が動いたときに発見が生まれて、感性が磨かれます。
互いに認め合い、尊重し、それによって自分自身を俯瞰的に見る訓練、これが「座の文芸」です。
今後も、句会とともに「俳句という大いなる遊び」を広めてまいります。
詳しくはまたホームページをご覧のうえ、お問い合わせください。

「森俳句会」ホームページ
http://morihaikunokai.jp
尚、ご質問につきましては、
「森俳句会」
morihaikunokai@gmail.com
までお気軽にご連絡ください。

2023.1.01.kyoto
元旦初御空、於京都萬居にて

大森健司
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kenjiomori

Author:kenjiomori
俳句結社「森」主宰、大森健司のブログ★受賞多数。
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お問い合わせは「森」ホームページ にて。

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