息が足りない

歌人、河野裕子氏が2010年8月12日に亡くなられた。
永田和宏氏と河野裕子氏の長女である永田紅は偶然、同志社中学校からの同級生であったが、社会人になるまで互いに俳句、短歌をしていたことは知らなかった。
しばらくして永田紅から歌集『日輪』が贈られてきた。
何度も何度も読んだ。同級生にこのような存在がいることは非常に嬉しかった。


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僕が俳句現代賞を受賞した際には心から喜んでくださり、この句はいい、この句はダメね、と仰ってくださった。
「京都に帰った際には必ず遊びに来てね、健ちゃん。」
それが裕子さんと最後に交わした会話であった。そのとき僕はまだ東京にいた。

たとへば君 ガサッと落葉すくふやうに私をさらつては行つてはくれぬか 河野裕子

たつぷりと真水を抱きてしづもらる昏き器を近江と言へり

また次の一首は、裕子氏が京大研究所にて診察を終えて、迎えにきた永田和宏氏と直面した際の歌である。このとき既に裕子氏が末期の乳がんであることは、ふたりとも知る逃れようのない事実であった。裕子氏はそんな和宏氏にこう詠っている。

何といふ顔をしてわれを見るものか私はここよ吊り橋ぢやない

そして、辞世の一首。

手をのべてあなたとあなたに触れたきに息が足りないこの世の息が

読んだ瞬間に胸があつくなる一首である。言葉にできない。
作品のすべてに言えることは独特の言語感覚の鋭さ、そして歌の大らかさ、のびやかさ、品位の高さである。
感銘するばかりである。
残念ながら俳壇には河野裕子氏に匹敵する女流俳人は今いないであろう。


20130209_02_大森健司


大森健司



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